稲谷龍彦京都大学大学院法学研究科教授

2026年6月19日・第221回国会 参議院 デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会 第6号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 12 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 123 発言)

若井先生、御質問いただき、ありがとうございます。

御質問いただいたのは、関連する二つの点に関するものであると承りました。

第一点目は、デジタル社会における個人の自律的意思や事前同意に頼る法制度の現代的な限界に関わる点、第二点目は、硬直的事前規制の現代的な課題について、イノベーションやAI産業の育成といった観点からお尋ねになったというふうに承りました。

まず、第二点目の方から端的にお答えいたしますと、硬直的な事前規制にこだわることは、イノベーションと法律のギャップを生みやすく、問題が大きいと考えます。

私の目からは、EUのAIアクトはまさにこの問題にはまってしまっているように思えます。AIアクトの元々の議論の段階では、生成AIやエージェンティックAIの社会実装といった事態は全く想定しておりませんでした。その結果として、例えば高リスクAIに関する人間による監視のような、解釈次第では認知的、技術的に相当無理のある規制が入ってしまっています。もちろん、技巧的な解釈を施すことでこうした規制を技術に適合させることも不可能ではありません。しかし、少なくとも、先走ってこうした規定を入れなければ生じなかったであろう技術開発に対する不要な萎縮効果を生んでしまっているということも事実だと思います。

残念ながら、事実として我が国のデータ利活用は余り進んでおらず、AI産業も世界をリードする立場にはありません。にもかかわらず、データやAIは我々の社会においてますます基盤的な役割を果たしつつあるわけです。このような状況下において、硬直的な事前規制にこだわり、イノベーションの機会を失し続けますと、個々人にとっても社会全体にとっても致命的な問題を引き起こしかねないと、このように考えてございます。

次に、第一点目の個人の自律的意思や事前同意に頼る法制度の限界についてでございます。

こうした法制度は、物語としては大変美しいのですが、デジタル化が進んで情報があふれる現代社会においては、個人に対する認知的な負荷が非常に大きく、法益保護の観点からは逆効果になる可能性もずっと指摘されているところでございます。

情報がデジタル化した現代においては、情報濫用等の現実的リスクは、どのような主体によって、どのような運用状況で、どのようなアーキテクチャーの下で情報が管理されるかに大きく左右されます。そして、これらの要素によるリスクの増減は、情報主体、データ主体の同意の有無とは直接的には関わりがありません。

したがって、現代においてリスク管理の観点から決定的に重要なのは、法、運用、技術、制度、運用、技術の適切な組合せによって、情報処理を実際に行う主体の下での情報濫用等のリスクが適正にコントロールできるかという点であり、また、適正なリスク管理を合理的費用で実現するためには、先端科学技術を適時に用いることができるように法制度を設計しなければなりません。

つまり、イノベーションの促進のみならず、法益保護、車の両輪とおっしゃられましたが、まさにそのとおりでございまして、法益保護、この観点からもアジャイルガバナンスのような方法論が求められていると、このように考えてございます。

以上です。

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