小林良樹情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科教授

2026年4月16日・第221回国会 衆議院 内閣委員会 第5号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 4 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 113 発言)

情報セキュリティ大学院大学の小林良樹と申します。

本日は、このような機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。

私は、主にアメリカの制度を中心といたしまして、インテリジェンス組織のガバナンスの在り方に関する学術研究を行っております。本日は、現在御審議がなされております我が国の新たな制度案に関しまして、主に学術研究の立場から若干の所見を申し述べさせていただきたいと存じます。

大きく分けまして、二つの点がございます。第一は、本制度改革案の学術的な意義についてでございます。第二は、その際に留意すべきと考えられる点についてでございます。

まず、第一の点、本制度改革案の学術的な意義についてでございます。

インテリジェンスの意義や機能に関する考え方は様々でございますが、今般の改革案は、一定程度、アメリカを含む各国における先行事例の知見に沿った側面を有しているものと考えられます。

アメリカを中心とする学術研究におきましては、インテリジェンスとは政策決定を支援するものというふうに捉えられております。こうした観点からは、インテリジェンス機能の強化は政策決定の質の向上に資するものであり、また、適切なインテリジェンスに基づく意思決定は、後から検証可能な合理性を担保する、このことにつながると考えられます。こうしたことから、インテリジェンス機能の強化は、政策決定に関する国民に対する民主的なアカウンタビリティー、すなわち説明責任の向上に資するものと考えられます。

アメリカの歴史におきましても、いわゆる教科書事例ではございますが、例えば、一九六二年のキューバ・ミサイル危機における意思決定過程におきましては、CIAを始めとするインテリジェンス機関は、ケネディ大統領の政策判断、さらにはこうした政策判断に関する国民に対する説明、こういったものを支援する機能を一定程度果たしたと評価されております。

逆に言えば、インテリジェンス機能が不十分な場合、安全保障に関する適切な意思決定が困難となり、結果として、国民に対する民主的なアカウンタビリティー、すなわち説明責任の十分な確保が難しくなることが懸念されるわけでございます。

さて、学術的には、インテリジェンス機能の強化のためには、いわゆるインテリジェンスサイクルを適切に回す、このことが重要だと考えられております。ここで申しますインテリジェンスサイクルとは、単純化して申し上げるならば、必要な情報を収集し、分析し、政策決定に役立て、そしてその結果を次のインテリジェンス活動に反映させる、こうした一連の循環を意味いたします。

その上で、インテリジェンスサイクルを適切に回すためには、主に二つの点が重要と考えられております。第一に、インテリジェンスの利用者である政策決定者が、インテリジェンスに対するニーズ、いわゆるリクワイアメントというものを責任を持ってインテリジェンス部門に提示することでございます。第二に、そうしたリクワイアメントを受けたインテリジェンス部門が、統合された形で効率的に機能することでございます。

今回の法案におきましては、国家情報会議の設置が前者に、そして、同会議の事務局である国家情報局の設置が後者に、それぞれ資するものと考えられます。

また、今般創設が検討されております国家情報局は、アメリカの国家情報長官室、いわゆるODNIを参考とした制度設計であると推察されます。アメリカのODNIは、制度の創設から既に約二十年が経過しております。ただ、この間のアメリカのインテリジェンスコミュニティーの統合機能につきましては、一定の評価がなされているところでございます。例えば、分析機能の高度化、インテリジェンス組織の透明性の向上、こういったことに関するいわゆるインテリジェンス政策、諸施策の推進などの成果が指摘されているところでございます。

我が国におきましても、国家情報局の機能が適切に発揮されるのであれば、こうしたアメリカにおけるODNIの場合と同様に、一定の成果が期待されるものと考えられます。

以上が、第一の点、本制度改革案の学術的な意義についてでございます。

次に、第二の点、留意すべきと考えられる点について申し上げます。ここでは、二点を御指摘申し上げたいと思います。第一は制度の限界について、第二は国民の理解の確保についてでございます。

まず、第一の点、制度の限界についてでございます。

学術上、インテリジェンス機構のガバナンスに関しましては、幾つかの困難な論点が存在するというふうに考えられております。例えば、政治によるインテリジェンスに対する民主的統制とインテリジェンスの客観性の維持、このバランス、あるいは、秘匿性の確保と透明性や説明責任の確保の両立などでございます。ここで申します客観性の維持の例としては、いわゆる政治化、ポリティサイゼーション、すなわち特定の政治的立場への配慮等によりインテリジェンスの客観性が失われること、このことの防止も含むものでございます。

こうした課題に関しましては、各国において様々な制度的、実務的工夫が積み重ねられてきておりますが、幾つかの学術研究におきましては、制度の成否は最終的にはそれを担う人に依存するとの指摘がなされております。例えば、アメリカにおけるインテリジェンス研究の代表的な教科書でありますローエンタール博士の著作におきましても、例えば、インテリジェンスと倫理、あるいはインテリジェンスにおける政策決定者の役割、こういったことにそれぞれ独立の章が当てられておるところでございます。

こうしたことから、制度の整備のみならず、それに関与する関係者一人一人のリテラシーや組織文化が重要であると考えられます。

例えば、インテリジェンス組織において、各人員のいわゆる出身省庁意識、こういったものが強く残る場合には、統合機能が十分に発揮されない可能性が残るわけでございます。また、政策決定者の側においても、インテリジェンスの限界の理解、あるいは、利用者としての責任の自覚、インテリジェンス活動の秘密保持への配慮、そして党派的利用の抑制、こういった点などが求められると考えられます。

次に、第二の点、国民の理解の確保でございます。

インテリジェンス機能強化の意義につきましては、必ずしも十分に国民の理解が得られていないのではないか、あるいは誤解が存在するのではないかとの御指摘もございます。国民からの理解の不足は、中長期的には、インテリジェンス組織あるいは活動の正統性、いわゆるレジティマシーにネガティブな影響を与え、その機能の低下につながる可能性も否定できません。

他国の例を見ますと、例えばアメリカにおきましては、二〇一三年のスノーデン事案等を契機といたしまして、先ほど申し上げましたODNIのリーダーシップの下、インテリジェンス活動の透明性向上のための取組が進められております。また、イギリスにおきましても、インテリジェンス組織幹部による対外説明の充実等の努力が図られておるところでございます。

各国の制度はそれぞれの政治、社会状況に依存するため単純な比較は困難ではございますが、こうした各国の取組は我が国においても一定の参考になるものと考えられます。

加えて、今後仮に、我が国におきましても、対外インテリジェンス活動あるいはカウンターインテリジェンス活動を含めて、インテリジェンス活動の更なる拡充が議論される場合におきましては、インテリジェンス組織の透明性の確保に加え、議会、行政府、第三者機関等による民主的統制の在り方に関しましても、我が国の政治的、社会的状況を踏まえつつ、慎重かつ十分な御議論が尽くされることが一考に値するものと考えられる次第でございます。

以上、私からは、本日、本制度改革案の意義と留意点に関しまして、学術的な観点からの所見を若干申し述べさせていただきました。

本制度改革案は、インテリジェンス機能の強化を通じて、政策決定に関する国民に対する民主的なアカウンタビリティー、すなわち説明責任の向上に資する可能性を有すると考えられます。他方で、その効果を十分に発揮するためには、制度の設計はもとより、それを運用する人材の在り方や国民の理解の確保といった点にも十分な配慮が求められると考えられます。制度の整備と、それを支える運用、理解の双方があって初めてインテリジェンス機能は適切に機能するものと考えられる次第でございます。

御清聴どうもありがとうございました。以上でございます。(拍手)

前後のやりとり

0の発言を見る

8の発言を見る