どうも皆様、おはようございます。御紹介いただきました弁護士の村山浩昭と申します。
まず、衆議院法務委員会の皆様、本日は、こういう機会を設けていただきまして、誠にありがとうございます。
私は、現在弁護士ですが、三十九年間裁判官をやっておりました。刑事司法に携わり、袴田事件にも関与いたしました。本日は、そういった私の裁判官の経験と、そして、冤罪を生み出し、長年これを救済してこられなかった、そういう司法部の、責任のある司法部の一員として、この法務委員会の席上で再審法改正について私の意見を述べさせていただきたい、このように思っております。
袴田事件を経験いたしまして私がまず考えたのは、現在の再審制度では、冤罪救済が極めて困難であり、たとえ救済できたとしても、著しく長い時間がかかっているということであります。その大きな原因は、裁判所が十分な審理と判断を行うための権限や義務が法律上明確になっていません。
袴田事件では、第一次再審請求審だけで二十七年という長い時間がかかっています。地裁で十三年、高裁で十年、最高裁で四年です。そして、この間に行われた証拠開示は実質的にゼロです。
再審請求審には、通常の刑事裁判のような、裁判所に期日指定義務がありません。審理の長期化を防ぐ仕組みもありません。証拠開示についても明確な規定が存在しないため、裁判所の運用は担当裁判官の姿勢に大きく左右されます。
結果として、裁判官による審理の進め方や証拠開示の範囲が大きく異なり、いわゆる裁判官格差、再審格差が生じております。公平で迅速な冤罪救済を実現するためには、裁判官個人の考え方に依拠するのではなく、法律による明確なルールが必要であります。
本日は、私は、証拠開示についてある程度集中的にお話をさせていただきます。なぜならば、この証拠開示こそが再審事件にとって最も重要な問題だと私は思っているからです。
刑事訴訟法四百三十五条六号の無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときという、大体この条文によって現在再審請求が争われています。しかし、その新証拠を見つけること自体が極めて困難なのです。なぜなら、事件に関する証拠はほとんど警察や検察の手元にあります。無罪を示す証拠も、その中に埋もれています。したがって、再審において、証拠開示はまさに生命線だと言っていいかと思っています。
私は、最も望ましいのは全面開示であると考えています。全面開示が行われれば、請求人も裁判所も、そもそもどのような証拠が存在しているのかということが分かります。しかし、現在では、そもそもどういう証拠があるのかさえも分からずに、請求人は再審請求をし、裁判所は審理に臨まなければならないという事態に立ち至っています。
私は、野党三党共同の提案、これは、以前、昨年ですかね、の国会で、再審議員連盟が作った法案を野党の共同提案として提出されたものと同一のものと認識しておりますけれども、略称、議連案と呼びますけれども、この議連案に基本的には賛成の立場を取っています。しかし、本日は、私が法制審の刑事法再審法部会の委員を務めたということもありまして、この答申に基づいて作成されている内閣提出法案、閣法について、私なりに分析し、その問題点について申し上げたいと思います。
今回の政府案では証拠開示制度が導入されたかのように説明されていますけれども、それは全く違います。ここをまずよく御認識いただきたい。政府案が定めているのは、裁判所が事実取調べのために検察官へ証拠提出を命じるという制度でありまして、請求人側に証拠開示をするという制度ではありません。
これは単なる証拠の出し方の問題だけではありません。というのは、そこに本質的な差があるからです。証拠開示というのは、請求人側が、請求理由を基礎づける事実の存否や新証拠の信用性を確認するために、検察官が持っている証拠を検討し、自らの主張や立証のために利用する、こういう制度でございます。これに対し、閣法の証拠提出は、裁判所が自らの判断資料を得るための制度です。目的が全く異なっています。
裁判所は、当然のことながら、自らの判断に必要と考える証拠を求めます。しかし、請求人側にとって必要な証拠は、それよりはるかに広い範囲に及んでおります。実際に、一見しますと関係が薄く見える証拠の中から再審開始の決め手となる証拠が見つかる例も少なくありません。
また、証拠の真の価値は当事者でなければ分からないということがあります。例えば取調べの録音テープはどうでしょうか。取調べの録音テープが実際に編集され改ざんされている例が現に存在しています。これを見抜けるのは取調べを体験した本人だけです。このテープを聞いて、裁判官がどうしてこれが編集されたものだということを見抜けるんでしょうか。そういうことがあるからこそ、請求人自身が証拠を見る必要が高いのです。
また、再審は職権主義だから、証拠開示というのは当事者主義的制度であって否定されるんだ、こういうふうにも言われています。本当にそうでしょうか。審理構造が職権主義だというふうに言われておりますけれども、請求人側には、請求理由の提示と新証拠の提出という重い負担が課せられています。この点は明らかに当事者主義的要素が認められております。
そうであれば、捜査機関が収集した証拠を請求人側が利用できないというのは不合理ではないでしょうか。公費を使い、捜査機関が強制力を用いて集めた証拠によって被告人は有罪とされました。しかし、同じように収集された証拠の中に、被告人を無罪とする証拠が眠っているかもしれません。にもかかわらず、検察官がそれを提出しないために無実の者が救済されない、このようなことが許されていいんでしょうか。
私は、このような事態はまさに正義に反する不条理であると考えています。この点は是非とも国会議員の皆様方にお考えいただきたいのです。そこに無罪証拠があるかもしれないのに、検察官が、裁判所が、それを請求人に見せない、利用させない、このようなことを許す法律を作ってはなりません。その点こそが、証拠開示を考える上で最も重要な点であると考えます。
そして、証拠開示を命じるという条文を明らかに作る必要がある、このように思っています。それは、法務省は、証拠開示については運用で対応できる、このように説明しています。しかし、法律で裁判所に証拠提出命令権を与える一方で証拠開示命令権は認めないというのは不合理です。
現実の裁判実務を考えても、裁判官がどのような証拠が存在するのか分からない状態で、自ら探索的に証拠を探し出すということは不可能です。むしろ、請求人側が証拠を確認し、その中から必要なものを選び出して裁判所に提出するという現在の実務運用の方がよほど合理的ではないでしょうか。
これまでの改正の議論を踏まえますと、法律上、裁判所が職権で証拠開示命令を出せるというような明確な規定を定め、請求人はその職権発動を求めるといった、そういったたてつけであっても構わないかとは思っております。
また、勧告ではなく命令であることが重要です。検察官にとって、任意の協力要請と法的拘束力を持つ命令とでは全く意味合いが違います。証拠開示を確実に実現するためには、明確な命令権限を条文上定めるという必要があります。
検察官に無罪証拠を自ら提出するということを期待することは、私の長年の経験からいっても期待し難いと思います。あえて言えば、検察官が出したくない証拠ほど請求人が確認したい証拠であり、それを出させるためには法的拘束力による解決、これが最も合理的なのです。
次に、証拠一覧表について申し上げます。
再審請求について請求人が最も困るのは、先ほど来申し上げているように、どのような証拠が存在しているか、これが分からないということです。証拠一覧表は、この問題を解決するための極めて重要な資料です。一覧表があれば、証拠の内容を完全に把握できなくても、どのような証拠が存在するか推測できますし、開示漏れがないかどうかを確認することができます。
また、証拠開示と証拠提出の本質的な違いというものがありまして、この証拠提出に関係しては一覧表というものが定められています。政府案、閣法の標目一覧表というものは、これは請求人側は閲覧することができないんです。また、証拠開示と証拠提出の先ほど言った本質的な違いは、この証拠一覧表と標目一覧表とでも大きな差を生んでいます。
また、この標目一覧表、せっかく閣法に定めていただいたんですけれども、私は、実務的には使えることはまずないだろうと思っています。なぜならば、裁判官は実際に証拠を持ってこさせる方が早いんです。また、検察官も証拠を持っていく方がずっと簡便です。そのために、標目一覧表を作るという手間をかけるということは、まず検察官は嫌がると思います。そういう意味でも、標目一覧表は証拠一覧表の代替物にはなりません。
この証拠一覧表、何が問題か。恐らく検察官は、現在の法律でも行われているわけですけれども、証拠一覧表、三百十六条の十四の、これを作るのは大変なんです。全体の証拠を洗って、そしてリスト化しなきゃいけない、そういう手間が非常にかかると思います。しかし、手間がかかるからといって、証拠の管理という検察官の職務をないがしろにしていいということにはなりません。それでもやはり手間は手間でございますので、私は、この手間をある程度省くためには送致目録というものを使う、そういう意味で、一応、代替的な案を実際は議連案には組み込んであるということだと理解しています。
また、証拠一覧表で被害者の名誉やプライバシーが問題になるんだ、こういう御指摘がありました。私は、基本的にはそういうことはないと思っています、単なる一覧表ですので。しかし、それでも懸念があるというのであれば、現行法にきちんとそれを防止するための規定があるんです、それを参考にそういった条文を作成する、そこに設ければいいだけのことだというふうに思っています。
続いて、裁判所の裁量による証拠開示命令について申し上げます。
裁判官が確定記録や再審請求理由、新証拠を精査した際、一定の範囲の証拠を請求人側に見せて検討させた方がいいな、このように判断する局面は必ずと言っていいほど存在しています。これは、再審開始事件になった事件では、大体、裁判官はそういった心証になっているんだろうと推察しています。この段階では、新証拠との具体的な関連性や請求理由との具体的な関連性がなくても、大枠として請求理由に関連していれば開示を認めるべきだというふうに思っています。福井事件において裁判官が可能な限り広い証拠開示を求めたというのも、まさにこの趣旨であったと考えられます。
この点は、再審事件に真摯に向き合おうとする裁判官にとって深刻な問題です。現役の裁判官からも、この裁量による裁判官の証拠開示命令若しくは証拠提出命令について是非とも認めてほしい、これをなくすということは裁判官の手足を縛ることだということを、私のところに現役の裁判官が声を寄せています。どうかその点についても国会議員の皆様方の御理解をいただきたいと思います。
目的外使用の禁止。
確かに、被害者の方の名誉、プライバシー、これは本当に大事なことだと思っています。しかし、そのために一律に広範な禁止規定を設けるという必要があるんでしょうか。これまで、再審事件で、開示証拠の目的外使用によって被害者の名誉が侵害されたといった重大な問題が発生したという立法事実はあるんでしょうか。少年審判のように、裁判所が個別的に対応するということは十分できるわけです。
また、再審事件は、市民の支援や報道機関による検証が極めて重要な役割を果たしております。これは、開始になった事件を見れば明らかだと思います。こうした証拠の公表を一律に禁止することは、再審開始に向けての請求人側の活動を萎縮させ、マスコミの報道の自由、国民の知る権利を阻害するということになりはしないか、そういった観点から十分な検討を行っていただきたいと思います。
また、再審開始決定に対する検察官の不服申立てについては、言及する時間がございませんが、私は全面禁止に賛成でございます。閣法で、これは自民党の中で大変熱い議論を経て修正されました。これは非常に大きな修正だと思っています。そうであるならば、閣法が前提とする十分な根拠、これについては裁判所が厳格に審査すべき裁判規範として運用される必要がある、そうでなければ実効的な制限にはなりません。
最後に、私の再審制度に対する思いを簡潔に述べさせてください。
再審というのは、国家による誤った裁判によって人権を侵害された方を救済する最後のとりでであります。冤罪を正し、無実の方を救うということは、刑事司法にとって最も重大な使命であり、正義そのものです。
法的安定性も大変重要ですが、確定判決の際に裁判官が見ていなかった証拠が現れ、その証拠を含めて考えると確定判決の結論が揺らぐということは十分あり得ることであり、そのような場合に、確定判決をかたくなに守ろうとすることにどれほどの意味があるのでしょうか。それ以上に真実の発見と具体的正義の実現が優先されるべきでありまして、それこそが再審なのです。
我が国において、一九七〇年代から八〇年代にかけて、四大死刑再審事件というものがありました。いずれも無罪になりました。それにもかかわらず、法律は変わりませんでした。それが、今も冤罪の苦しみが続いている原因です。
今、袴田事件を始めとする多くの再審事件を通じて、再審制度の問題点が広く国民に認識され、法改正への機運はかつてなく高まっております。この機会を逃さず、冤罪救済を実効的なものとするために再審法改正を実現することが、私たちの今の世代の責任であり、今このときに国会に身を置く国会議員の皆様方に課せられた重大な使命、責務であると私は思います。
以上、御清聴ありがとうございました。(拍手)
3井井上英孝(維新)
ありがとうございました。
次に、袴田参考人にお願いいたします。
この発言のページ
4袴袴田ひで子政府参考人など
袴田ひで子でございます。
私の弟巌は、殺人犯、死刑囚として、四十七年七か月、拘置所に収監されておりました。冤罪を訴えて、弁護士さんや支援者とともに、見えない権力と、真実を求めて闘ってまいりました。五十七年でございます。何でこんなに長くかかったのでしょう。再審請求は、見えない、ラクダを穴に通すと申しますか、再審法に不備があるからだと思っております。
巌が最高裁で一審の死刑が確定した後、私は記者会見をいたしましたが、そのときに皆さんが敵に見えました。弁護士さんも支援者も、何だか知らないけれども全部敵に見えました。それで、拘置所へ行って、巌に、これからは何…
この発言のページ
5井井上英孝(維新)
ありがとうございました。
次に、村山参考人にお願いいたします。
この発言のページ
- (上の発言)
6村村山浩昭弁護士
どうも皆様、おはようございます。御紹介いただきました弁護士の村山浩昭と申します。
まず、衆議院法務委員会の皆様、本日は、こういう機会を設けていただきまして、誠にありがとうございます。
私は、現在弁護士ですが、三十九年間裁判官をやっておりました。刑事司法に携わり、袴田事件にも関与いたしました。本日は、そういった私の裁判官の経験と、そして、冤罪を生み出し、長年これを救済してこられなかった、そういう司法部の、責任のある司法部の一員として、この法務委員会の席上で再審法改正について私の意見を述べさせていただきたい、このように思っております。
袴田事件を経験いたしまして私がまず考えたのは、現在の再審制度では、冤罪救済が極めて困難であり、たとえ救済できたとしても、著しく長い時間がかかっているということであります。その大きな原因は、裁判所が十分な審理と判断を行うための権限や義務が法律上明確になっていません。
袴田事件では、第一次再審請求審だけで二十七年という長い時間がかかっています。地裁で十三年、高裁で十年、最高裁で四年です。そして、この間に行われた証拠開示は実質的にゼロです。
再審請求審には、通常の刑事裁判のような、裁判所に期日指定義務がありません。審理の長期化を防ぐ仕組みもありません。証拠開示についても明確な規定が存在しないため、裁判所の運用は担当裁判官の姿勢に大きく左右されます。
結果として、裁判官による審理の進め方や証拠開示の範囲が大きく異なり、いわゆる裁判官格差、再審格差が生じております。公平で迅速な冤罪救済を実現するためには、裁判官個人の考え方に依拠するのではなく、法律による明確なルールが必要であります。
本日は、私は、証拠開示についてある程度集中的にお話をさせていただきます。なぜならば、この証拠開示こそが再審事件にとって最も重要な問題だと私は思っているからです。
刑事訴訟法四百三十五条六号の無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときという、大体この条文によって現在再審請求が争われています。しかし、その新証拠を見つけること自体が極めて困難なのです。なぜなら、事件に関する証拠はほとんど警察や検察の手元にあります。無罪を示す証拠も、その中に埋もれています。したがって、再審において、証拠開示はまさに生命線だと言っていいかと思っています。
私は、最も望ましいのは全面開示であると考えています。全面開示が行われれば、請求人も裁判所も、そもそもどのような証拠が存在しているのかということが分かります。しかし、現在では、そもそもどういう証拠があるのかさえも分からずに、請求人は再審請求をし、裁判所は審理に臨まなければならないという事態に立ち至っています。
私は、野党三党共同の提案、これは、以前、昨年ですかね、の国会で、再審議員連盟が作った法案を野党の共同提案として提出されたものと同一のものと認識しておりますけれども、略称、議連案と呼びますけれども、この議連案に基本的には賛成の立場を取っています。しかし、本日は、私が法制審の刑事法再審法部会の委員を務めたということもありまして、この答申に基づいて作成されている内閣提出法案、閣法について、私なりに分析し、その問題点について申し上げたいと思います。
今回の政府案では証拠開示制度が導入されたかのように説明されていますけれども、それは全く違います。ここをまずよく御認識いただきたい。政府案が定めているのは、裁判所が事実取調べのために検察官へ証拠提出を命じるという制度でありまして、請求人側に証拠開示をするという制度ではありません。
これは単なる証拠の出し方の問題だけではありません。というのは、そこに本質的な差があるからです。証拠開示というのは、請求人側が、請求理由を基礎づける事実の存否や新証拠の信用性を確認するために、検察官が持っている証拠を検討し、自らの主張や立証のために利用する、こういう制度でございます。これに対し、閣法の証拠提出は、裁判所が自らの判断資料を得るための制度です。目的が全く異なっています。
裁判所は、当然のことながら、自らの判断に必要と考える証拠を求めます。しかし、請求人側にとって必要な証拠は、それよりはるかに広い範囲に及んでおります。実際に、一見しますと関係が薄く見える証拠の中から再審開始の決め手となる証拠が見つかる例も少なくありません。
また、証拠の真の価値は当事者でなければ分からないということがあります。例えば取調べの録音テープはどうでしょうか。取調べの録音テープが実際に編集され改ざんされている例が現に存在しています。これを見抜けるのは取調べを体験した本人だけです。このテープを聞いて、裁判官がどうしてこれが編集されたものだということを見抜けるんでしょうか。そういうことがあるからこそ、請求人自身が証拠を見る必要が高いのです。
また、再審は職権主義だから、証拠開示というのは当事者主義的制度であって否定されるんだ、こういうふうにも言われています。本当にそうでしょうか。審理構造が職権主義だというふうに言われておりますけれども、請求人側には、請求理由の提示と新証拠の提出という重い負担が課せられています。この点は明らかに当事者主義的要素が認められております。
そうであれば、捜査機関が収集した証拠を請求人側が利用できないというのは不合理ではないでしょうか。公費を使い、捜査機関が強制力を用いて集めた証拠によって被告人は有罪とされました。しかし、同じように収集された証拠の中に、被告人を無罪とする証拠が眠っているかもしれません。にもかかわらず、検察官がそれを提出しないために無実の者が救済されない、このようなことが許されていいんでしょうか。
私は、このような事態はまさに正義に反する不条理であると考えています。この点は是非とも国会議員の皆様方にお考えいただきたいのです。そこに無罪証拠があるかもしれないのに、検察官が、裁判所が、それを請求人に見せない、利用させない、このようなことを許す法律を作ってはなりません。その点こそが、証拠開示を考える上で最も重要な点であると考えます。
そして、証拠開示を命じるという条文を明らかに作る必要がある、このように思っています。それは、法務省は、証拠開示については運用で対応できる、このように説明しています。しかし、法律で裁判所に証拠提出命令権を与える一方で証拠開示命令権は認めないというのは不合理です。
現実の裁判実務を考えても、裁判官がどのような証拠が存在するのか分からない状態で、自ら探索的に証拠を探し出すということは不可能です。むしろ、請求人側が証拠を確認し、その中から必要なものを選び出して裁判所に提出するという現在の実務運用の方がよほど合理的ではないでしょうか。
これまでの改正の議論を踏まえますと、法律上、裁判所が職権で証拠開示命令を出せるというような明確な規定を定め、請求人はその職権発動を求めるといった、そういったたてつけであっても構わないかとは思っております。
また、勧告ではなく命令であることが重要です。検察官にとって、任意の協力要請と法的拘束力を持つ命令とでは全く意味合いが違います。証拠開示を確実に実現するためには、明確な命令権限を条文上定めるという必要があります。
検察官に無罪証拠を自ら提出するということを期待することは、私の長年の経験からいっても期待し難いと思います。あえて言えば、検察官が出したくない証拠ほど請求人が確認したい証拠であり、それを出させるためには法的拘束力による解決、これが最も合理的なのです。
次に、証拠一覧表について申し上げます。
再審請求について請求人が最も困るのは、先ほど来申し上げているように、どのような証拠が存在しているか、これが分からないということです。証拠一覧表は、この問題を解決するための極めて重要な資料です。一覧表があれば、証拠の内容を完全に把握できなくても、どのような証拠が存在するか推測できますし、開示漏れがないかどうかを確認することができます。
また、証拠開示と証拠提出の本質的な違いというものがありまして、この証拠提出に関係しては一覧表というものが定められています。政府案、閣法の標目一覧表というものは、これは請求人側は閲覧することができないんです。また、証拠開示と証拠提出の先ほど言った本質的な違いは、この証拠一覧表と標目一覧表とでも大きな差を生んでいます。
また、この標目一覧表、せっかく閣法に定めていただいたんですけれども、私は、実務的には使えることはまずないだろうと思っています。なぜならば、裁判官は実際に証拠を持ってこさせる方が早いんです。また、検察官も証拠を持っていく方がずっと簡便です。そのために、標目一覧表を作るという手間をかけるということは、まず検察官は嫌がると思います。そういう意味でも、標目一覧表は証拠一覧表の代替物にはなりません。
この証拠一覧表、何が問題か。恐らく検察官は、現在の法律でも行われているわけですけれども、証拠一覧表、三百十六条の十四の、これを作るのは大変なんです。全体の証拠を洗って、そしてリスト化しなきゃいけない、そういう手間が非常にかかると思います。しかし、手間がかかるからといって、証拠の管理という検察官の職務をないがしろにしていいということにはなりません。それでもやはり手間は手間でございますので、私は、この手間をある程度省くためには送致目録というものを使う、そういう意味で、一応、代替的な案を実際は議連案には組み込んであるということだと理解しています。
また、証拠一覧表で被害者の名誉やプライバシーが問題になるんだ、こういう御指摘がありました。私は、基本的にはそういうことはないと思っています、単なる一覧表ですので。しかし、それでも懸念があるというのであれば、現行法にきちんとそれを防止するための規定があるんです、それを参考にそういった条文を作成する、そこに設ければいいだけのことだというふうに思っています。
続いて、裁判所の裁量による証拠開示命令について申し上げます。
裁判官が確定記録や再審請求理由、新証拠を精査した際、一定の範囲の証拠を請求人側に見せて検討させた方がいいな、このように判断する局面は必ずと言っていいほど存在しています。これは、再審開始事件になった事件では、大体、裁判官はそういった心証になっているんだろうと推察しています。この段階では、新証拠との具体的な関連性や請求理由との具体的な関連性がなくても、大枠として請求理由に関連していれば開示を認めるべきだというふうに思っています。福井事件において裁判官が可能な限り広い証拠開示を求めたというのも、まさにこの趣旨であったと考えられます。
この点は、再審事件に真摯に向き合おうとする裁判官にとって深刻な問題です。現役の裁判官からも、この裁量による裁判官の証拠開示命令若しくは証拠提出命令について是非とも認めてほしい、これをなくすということは裁判官の手足を縛ることだということを、私のところに現役の裁判官が声を寄せています。どうかその点についても国会議員の皆様方の御理解をいただきたいと思います。
目的外使用の禁止。
確かに、被害者の方の名誉、プライバシー、これは本当に大事なことだと思っています。しかし、そのために一律に広範な禁止規定を設けるという必要があるんでしょうか。これまで、再審事件で、開示証拠の目的外使用によって被害者の名誉が侵害されたといった重大な問題が発生したという立法事実はあるんでしょうか。少年審判のように、裁判所が個別的に対応するということは十分できるわけです。
また、再審事件は、市民の支援や報道機関による検証が極めて重要な役割を果たしております。これは、開始になった事件を見れば明らかだと思います。こうした証拠の公表を一律に禁止することは、再審開始に向けての請求人側の活動を萎縮させ、マスコミの報道の自由、国民の知る権利を阻害するということになりはしないか、そういった観点から十分な検討を行っていただきたいと思います。
また、再審開始決定に対する検察官の不服申立てについては、言及する時間がございませんが、私は全面禁止に賛成でございます。閣法で、これは自民党の中で大変熱い議論を経て修正されました。これは非常に大きな修正だと思っています。そうであるならば、閣法が前提とする十分な根拠、これについては裁判所が厳格に審査すべき裁判規範として運用される必要がある、そうでなければ実効的な制限にはなりません。
最後に、私の再審制度に対する思いを簡潔に述べさせてください。
再審というのは、国家による誤った裁判によって人権を侵害された方を救済する最後のとりでであります。冤罪を正し、無実の方を救うということは、刑事司法にとって最も重大な使命であり、正義そのものです。
法的安定性も大変重要ですが、確定判決の際に裁判官が見ていなかった証拠が現れ、その証拠を含めて考えると確定判決の結論が揺らぐということは十分あり得ることであり、そのような場合に、確定判決をかたくなに守ろうとすることにどれほどの意味があるのでしょうか。それ以上に真実の発見と具体的正義の実現が優先されるべきでありまして、それこそが再審なのです。
我が国において、一九七〇年代から八〇年代にかけて、四大死刑再審事件というものがありました。いずれも無罪になりました。それにもかかわらず、法律は変わりませんでした。それが、今も冤罪の苦しみが続いている原因です。
今、袴田事件を始めとする多くの再審事件を通じて、再審制度の問題点が広く国民に認識され、法改正への機運はかつてなく高まっております。この機会を逃さず、冤罪救済を実効的なものとするために再審法改正を実現することが、私たちの今の世代の責任であり、今このときに国会に身を置く国会議員の皆様方に課せられた重大な使命、責務であると私は思います。
以上、御清聴ありがとうございました。(拍手)
7井井上英孝(維新)
ありがとうございました。
以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
この発言のページ
8井井上英孝(維新)
これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。山本大地君。
この発言のページ
9山山本大地(自民)
おはようございます。自由民主党、和歌山一区選出の山本大地でございます。
参考人の皆様には、今日、小雨の降る中、そしてお足下の悪い中、早朝からにもかかわらずお越しいただきまして、本当にありがとうございます。非常に身を打つといいますか、心に響く、また御教示をいただいたと思っております。
それでは、質問に入らせていただきたいと思います。
先ほど参考人の皆様からもお話がございましたが、私ども自由民主党では、法務省が提示をいたしました当初の改正案を踏まえて、党内で計十一回、延べ三十二時間以上の時間をかけて、再審制度の在り方について精力的に議論を行ってまいりま…
この発言のページ