郷野智砂子一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長

2026年6月19日・第221回国会 参議院 デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会 第6号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 7 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 123 発言)

本日は、デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会におきまして発言の機会をいただき、誠にありがとうございます。全国消費者団体連絡会事務局長の郷野でございます。

私ども全国消団連は、一九五六年に結成された消費者団体の全国的な連絡組織です。全国の消費者団体が連携し、消費者の権利の実現と暮らしの向上、消費者団体活動の活性化と消費者運動の発展に寄与することを目的として活動しています。

本日は、消費者の立場から、個人情報保護制度の在り方について意見を申し述べます。どうぞよろしくお願いいたします。

二〇二六年一月九日に公表された個人情報保護法制度改正方針は、四月七日に個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案として閣議決定されましたが、個人の権利利益保護の観点から多くの重要課題が存在します。

本日は、個人情報保護法三年見直し検討会報告書で示された論点と比較しながら、制度設計上の問題点を整理し、今後必要となる改善方向を述べたいと思います。

まず、総論として、令和八年方針と改正法案は、令和六年報告書が示したデジタル社会における個人の権利保障という基本方向から大きく後退しています。課徴金制度、差止め請求制度、集団的救済制度という権利保護の基盤的仕組みが弱体化又は消滅し、本人同意制度や要配慮個人情報の扱いにおいても緩和が進んでいます。AIプロファイリングに関連する現代的な権利侵害への対応も不十分であり、制度全体の実効性に強い懸念がございます。

第一に、課徴金制度の後退です。

令和六年報告書では、課徴金の役割を不当利得の剥奪と位置付け、悪質性ではなく利得の有無で判断するべきと明確に整理していました。安全管理措置義務違反についても、本来投資するべきコストを回避している点で利得が生じるため対象とし得ると分析されていました。しかし、令和八年方針と改正法案では、課徴金対象が悪質な事業者に限定され、安全管理措置義務違反は対象外となりました。漏えいの多くはずさんな安全管理に起因するため、この後退は大規模漏えいへの抑止力を大きく弱める結果となっています。

第二に、差止め請求制度の削除です。

令和六年報告書では、不特定かつ多数の消費者の個人情報が不適正に利用される場合など、適格消費者団体による差止め請求制度が不可欠と整理されていました。違法なデータ利用を迅速に停止する仕組みは被害拡大を防ぐ上で重要な役割を果たします。しかし、令和八年方針と改正法案では、制度案が完全に削除され、導入見送りの記述となっています。これでは、現行制度で最も脆弱な領域が放置されることになります。

第三に、被害回復制度、集団的救済が消滅しています。

個人情報被害の多くは少額多数であり、被害者本人が訴訟に踏み切ることは現実的ではありません。令和六年報告書では、この点を踏まえ、集団的救済制度が不可欠であると整理されました。しかし、令和八年方針と改正法案では、制度化の方向性が示されず、被害者が救済されない構造が続く危険があります。

第四に、データの利活用に関する本人同意の原則が弱体化しています。

令和六年報告書では、同意の形骸化を防ぎ、本人関与を強化する必要性が指摘されました。しかし、令和八年方針と改正法案では、AI開発、統計作成や権利利益を害するおそれが少ない場合など、幅広い名目で同意不要例外が拡大されています。要配慮個人情報についても同意不要とされ得る点は、本人の知らないところでセンシティブ情報が扱われる危険を高めると考えます。

第五に、漏えい通知義務の緩和です。

令和八年方針と改正法案では、本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合は本人への通知不要となっています。漏えいの早期把握は二次被害防止の基盤であり、通知不要範囲の広がりは制度目的と整合しません。

第六に、AIプロファイリングアルゴリズムによる差別的取扱いや不利益誘導に関する規制が欠落しています。

令和六年報告書では、属性推定やスコアリングなどが新たな権利侵害を生むとして対策の必要性が整理されていましたが、令和八年方針と改正法案では対応が限定的であり、現代的リスクへの対策が不十分です。

第七に、子供の個人情報保護の不十分さが挙げられます。

個人情報保護法三年見直し検討会では余り議論されず、令和六年報告書では、子供の保護について検討を進めるとまとめられ、令和七年の個人情報保護法の制度的課題に対する考え方についてにおいては、子供の個人情報は最善の利益を優先的に考慮すべきとされました。令和八年方針と改正法案では、十六歳未満の個人情報について、法定代理人関与を明文化し、最善の利益を考慮すべき責務規定を新設することを盛り込みましたが、成人年齢と対比して十六歳未満を対象としたことや、法定代理人の選定について論議が不十分ではなかったかと考えます。

第八に、要配慮個人情報の扱いが緩和されている点も問題です。

本来最も慎重に保護するべき情報であるにもかかわらず、AI、統計名目で同意不要扱いとされる内容となっています。差別的利用を防止する観点からも再検討が必要です。

第九に、私たちに寄せられた消費者からの異議申立てについて述べます。

スーパーマーケットのセルフレジに顔モニターが設置されているにもかかわらず、顔データの取得有無を事業者に尋ねても回答を拒否されたというものです。来店者がモニターの前に立つだけで顔が映り込み、黙示的同意とみなされ得る状況に不安を感じたこと、顔データは銀行口座認証などに利用される極めて機密性の高い情報であり、一度取得されると利用の実態が把握できないということを非常に懸念される声でした。

改正法案では、顔特徴データ等の取扱いについての規定を設けますが、この問題は、本人同意の透明性の欠如、要配慮個人情報としての生体情報保護の不足、AIプロファイリングへの規制欠如、差止め請求制度の不存在など、複数の制度的課題に関わっています。よって、個人情報保護法を改正するのであれば、即時破棄の場合も含めて取得の有無を回答する義務、生体情報の厳格な規律、AI利用時の説明義務、差止め請求制度の導入などが不可欠です。

以上のとおり、令和八年方針と改正法案は個人情報保護法の目的である個人の権利利益の保護と整合しているとは言えず、制度の抜本的見直しが求められます。今後の改正に向けて、課徴金制度の再構築、差止め請求制度の創設、集団的救済制度の導入、同意不要例外の厳格化、要配慮情報、子供情報の保護強化、AIプロファイリング規制の整備、漏えい通知義務の強化など、現代的リスクに対応した制度への転換が必要です。

個人情報保護委員会は、個人情報保護法三年見直し検討会で初めて消費者団体を論議の場に加えましたが、最終的な改正法案の確定に向けては消費者団体の声を求めませんでした。これからの個人情報保護法改正検討の場では、個人データ利活用の直接的な恩恵を受ける側だけではなく、必ず消費者団体の参加を位置付け、その声を生かすことが重要であると考えます。

以上です。

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