小林さやか (国民民主党)

2026年7月17日・第221回国会 参議院 本会議 第30号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 37 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 50 発言)

国民民主党・新緑風会の小林さやかです。

私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。

今回の再審法改正の目的、それは、無辜の人を罰することはあってはならず、誤判からの速やかな救済のために必要な手続を確実に制度として保障するということです。その点において、与野党の立場を超えて一致し、本日まで議論を重ねてまいりました。

近時相次いだ再審無罪事件において共通している最も重要な課題は、誤判を是正するために必要な証拠にたどり着けるかどうかが運用に任されていたということです。すなわち、たまたま当たった裁判官や検察官の善意に委ねられていました。

しかし、人は誤ります。ドイツの政治学者ハンナ・アーレントは、個人として善良な人も、組織の中で思考停止状態になり、特段悪意なく重大な不正に加担し得ると指摘しました。虚栄心や組織の理論、様々な事情で、個人が持つ倫理観を超えることが時にあり得るのです。

だからこそ、長年、運用に委ねられてきた再審請求手続を七十八年の年月を経て法定化しようとしたその方向性を評価し、国民民主党は、対決より解決の立場から、現実的な修正の提案を重ねてまいりました。しかし、それでもなお、どうしても譲ることのできない重要な課題が大きく二点残され、本法案には反対せざるを得ません。

以下、その理由を述べます。

まず第一は、議論の原点となった肝腎の幅広い証拠の開示が、結局、運用に任されたことです。

再審請求人は、新証拠を示さなければ再審開始への扉を開くことができません。しかし、その新証拠は通常審で提出されなかった証拠の中にあるかもしれないにもかかわらず、どんな証拠が保管されているのか、その全体像すら知ることができません。このジレンマの構造こそが、近時の再審事件が突き付けた最大の教訓だったはずです。

証拠の提出命令が法定化されたことは確かに前進です。ただしかし、その対象は再審請求理由に関連する証拠に限定されています。一方で、関連性を問わない幅広い証拠の開示は、制度化されず、これまで運用で行われてきた裁判官による勧告、そして任意のままとなってしまいました。

この議論の最中、七月十日になって、名古屋高等検察庁からようやく福井女子中学生殺人事件の調査結果の報告書が発表されました。その中で、通常審だけではなく、第一次再審請求審においてさえなお客観的証拠との食い違いを複数の検察官が認識していたにもかかわらず、新しい捜査報告書をあえて提出せず、十分な是正につながらなかったその経緯が明らかになりました。

これはもはや、個人の検察官の資質だけの問題ではなく、組織も誤り得るからこそ、その誤りを制度で正す仕組みが必要だという教訓です。

それは過去の話だけではありません。今、この議論をしている最中でさえ、検察官をめぐる不適切な事案が相次ぎ、検察そのものの信頼性が揺らいでいます。

だからこそ、国民民主党は、勧告や任意という個人の判断に依存する曖昧な運用ではなく、再審請求理由との関連性を問わない幅広い証拠を職権をもって命令で開示させる制度の創設が必要だと訴え続けてきました。しかし、残念ながら受け入れられませんでした。

そして、第二の反対理由は、新たに設けられる証拠の目的外使用の一律の禁止規定です。

政府は、この規定について、犯罪被害者や関係者のプライバシー、名誉を保護するために必要な制度であると説明します。その問題意識そのものを否定するものではありません。確かに、性犯罪などにおいて、被害者の尊厳を踏みにじるような写真や動画などを決してさらされたくないというお気持ちは痛いほど分かります。

ただしかし、私はジャーナリストとしてこれまで取材してきて、捜査機関が時にプライバシーの保護を盾に、自分たちにとって都合の悪い情報や本来検証されるべき情報まで社会から遠ざける場面を幾度となく見てきました。その結果、被害も見えにくくなり、再発の防止や制度の整備を求めて世に訴えたいという被害者の思いさえも阻害してきました。

現に、福井女子中学生殺人事件において、被害者の御家族御本人が、参議院法務委員会の参考人の質疑の中で、証拠を広く社会に出して真犯人を探すべきだと訴えたのです。

政府は、再審請求の準備のためであれば、証拠の目的外使用には当たらないと説明します。また、証拠の謄写そのものではなく、概要であれば問題ないなどとも言います。しかし、では、何が再審請求の準備に当たるのか、どこまで加工すれば謄写そのものではないと認められるのか、その判断基準は今なお曖昧で、個別具体的に判断するとしか説明しません。ならば、一律に罰則付きの禁止規定などを設けるのではなく、最初から全て個別判断にすればよいのではないでしょうか。

我が国には、少年事件の記録閲覧、謄写制度や、犯罪被害者保護法に基づく訴訟記録の閲覧、謄写制度など、裁判所が事件ごとに利益衡量する制度が既に存在しています。被害者の保護が重要だからこそ、一律の禁止ではなく個別の判断をしているのです。なぜ、再審ではそれができないのでしょうか。

これまで再審無罪判決となった事件では、弁護人だけではなく、研究者や報道機関や市民、支援者など、多くの人々の知見によって真実へ近づいてきました。一律の目的外使用禁止規定は、その力を必要以上に萎縮させるおそれがあります。

通常審においても、証拠を報道機関に提供した弁護人に対して、検察が懲戒請求をかけた事案があります。また、結審した刑事事件に付随する国家賠償訴訟で同じ証拠を使う場合でさえも、報道機関に提供しないことを誓約させるといった運用がなされています。政府は、今回の規定で萎縮など生じないと言い切りますが、こうした行為ばかりしていて、どうして信じられるんでしょうか。

また、政府は、通常審と同種の禁止規定であるとも説明します。しかし、証拠の開示や証拠の一覧リストなど、通常審にあるほかの規定については、通常審と再審は手続構造が違うとして制度化しません。その一方で、証拠の目的外使用禁止規定に関してだけ、これまで禁止規定がなくても何にも問題がなくて立法事実がないにもかかわらず、都合よく通常審をコピー・アンド・ペーストするかのように援用していて、その説明性に全く整合性が取れません。

そもそも政府案では、衆議院で修正された附則において、この目的外使用禁止の規定を五年ごとの見直しの対象として特出しで言及しています。これこそが、今既に問題があることの証左です。だったら、五年後を待たずに今見直さないんでしょうか。

犯罪被害者の保護と冤罪被害者の救済は対立するものではありません。どちらの声をも奪いかねない証拠の目的外使用の罰則付きの一律禁止規定には、明確に反対いたします。

証拠は誰のものでしょうか。検察官のものでも、弁護人のものでもありません。真実を明らかにして、無辜を救済し、司法への信頼を守る公益のためにあるものです。だからこそ、その証拠へのアクセスは最大限保障されて、その利用も守るべき利益との均衡の中で判断される制度ではなくてはなりません。

人は誤ります。だから制度があります。

私たち国民民主党は、今の刑事訴訟法が形作られて初めて再審に関する具体的手続が明文規定されること自体は歓迎しています。その第一歩が、長年にわたって、そして今も冤罪に苦しむ人を救うことにつながっているのか。そして、今後も冤罪が発生しないようになっているのか。五年後ではなく、今日この日から、立法府の責任として不断の検証と見直しに取り組むことを誓い、私の反対討論とさせていただきます。

御清聴ありがとうございました。(拍手)

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