菊池馨実早稲田大学理事・法学学術院教授

2026年6月16日・第221回国会 参議院 厚生労働委員会 第13号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 3 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 88 発言)

ただいま御紹介いただきました菊池でございます。この二月まで社会保障審議会福祉部会、介護保険部会、障害者部会などに所属してございました。

今回の改正は、高齢者を支える地域包括ケアシステムの一層の深化を図るとともに、障害のある方、子供、若者を始め、様々な生活上の課題に直面している方々を、地域の実情に応じて、行政、事業者、地域の関係者が一体となって支える地域共生社会の基盤整備の促進を目指すものです。

団塊の世代が後期高齢者となり、二〇四〇年を見据えた対応が求められています。高齢化が進み、医療と介護の複合ニーズを抱える八十五歳以上人口や単身高齢世帯が増加し、多様かつ複雑な福祉ニーズが顕在化しています。こうした傾向は今後全国的に顕著になることが見込まれるものの、地域差があり、とりわけ中山間・人口減少地域では既に深刻な課題となっており、地域の実情に応じたサービス提供体制の構築や福祉人材の確保が急務となっています。一方で、生産年齢人口の減少が進む中、福祉、介護サービスの担い手の確保は、ICTの進展やAIの本格活用を図ってもなお今後困難を来していきます。

こうした状況を踏まえ、改正法案は、福祉分野にとどまらず、分野横断的な連携の強化や地域との協働を促進し、地域共生社会の実現に向けた取組の推進を目指しています。

四つの視点から意見を述べさせていただきます。

第一に、担い手の確保が困難な中山間地域や人口減少地域の実情に応じ、柔軟な支援、サービス提供を可能とする仕組みの創設です。

まず、社会福祉法において、小規模市町村における福祉各分野の相談支援等の配置基準の柔軟化を図るとともに、地域住民との協働を促進する事業を新設することは、取組が相対的に進んでいない小規模自治体へ包括的支援の裾野を広げる上で重要な意義を有するものと考えます。

人的資源が限られる小規模市町村では、制度の柔軟性の確保が包括的に支援する体制を拡充するために不可欠です。相談支援体制の整備は、法令で定められた各種サービスの提供以上に自治体にとっては主体的な取組や創意工夫が求められ、ハードルは決して低くありません。今後、制度の具体的な運用に向けて各自治体の実情や課題を十分踏まえながら、小規模市町村が直面する人材面、財政面の制約に対応できるよう丁寧な検討を期待します。

また、高齢者を含む人口が減少し、サービス需要が減少する厳しい環境下にある中山間・人口減少地域において、その地域に必要なサービス基盤の維持という目的達成の手段として、配置基準の弾力化や包括的な評価の仕組みを導入可能とする新たな枠組みと、市町村の委託により介護等のサービスを実施する事業を介護、障害福祉等の分野で創設することは、特に地域の資源が乏しい自治体におけるサービス維持の観点から、必要な対応と考えております。

私は、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島浜通りの原発被災自治体や、能登半島地震で被災された自治体に入らせていただいています。人口全体が縮小する中で現役世代の働き手も減少し、将来の日本社会の縮図ですねといった話を現地の方と重ねてきました。能登の某自治体の介護関係部局では、とにかく働き手がいない、サービスを必要とする住民が広域にわたって移動距離が長い、このままで国の定めた基準に従ったサービスの存続は難しいと窮状を訴えられました。こうした現実を踏まえる必要があります。

介護保険との兼ね合いで、保険の理念を損なうのではないかという議論があります。確かに、拠出と給付の牽連性という観点からは、法定の給付に位置付け、基準に基づく給付が保障されることが望ましいことは言うまでもありません。ただし、三点指摘したいと思います。

第一に、介護保険サービスは自治事務であり、生活保護のような法定受託事務ではありません。地方自治法二条十三項は、自治事務に対し、国は地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならないと規定しています。

この地域の特性に応じた配慮は、配置基準の柔軟化を通じてなし得るのではないでしょうか。バスなど公共交通機関の減便、廃止、買物難民など、地域住民の直面する様々な公共的課題の中で、介護サービスの扱いも保険料納付者である地域住民の納得を得る必要があるように思われます。

第二に、保険料を重要な財源とする社会保険の特徴として、保険者自治が機能し得る点が挙げられます。自治、すなわち被保険者など利害関係者が地域のサービス提供の在り方に関与し、協働して決定する点に社会保険の規範的意義があります。

現行介護保険法百十七条十二項は、市町村介護保険事業計画に対する被保険者の意見反映のための措置を講ずべきことを規定し、基本指針で被保険者やサービス利用者及び家族などの意見の反映を求めています。地域のことを行政と住民が協働して決めていく、そうした規範が介護保険法に埋め込まれており、そうした規範は後に述べる地域共生社会の理念とも共通しています。

第三に、法定の給付ではない事業であっても、保険料財源が用いられ、拠出と給付の牽連性が全く失われるわけではありません。ただ、そうはいっても、自治体が現行の基準によるサービス維持に向けた努力を怠った中で安易に新制度への移行を検討することのないよう、国による明確な基準設定を含めた対応をお願いしたいと思います。サービス提供の現状や中山間・人口減少地域の実態を踏まえた丁寧な制度設計を期待します。

万一、こうした制度改革で十分な課題解決に至らない場合、次なる検討課題として、広域連合などの設置拡大が事実上困難な中での保険者事務の更なる連携可能性の模索、保険者単位の拡大、そして従来から論点となってきた被保険者、受給者範囲の拡大などが考えられます。

第二に、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援です。

近年、家族や親族等が担ってきた日常的な各種手続について、支援を受けられず、必要なサービスの利用が困難となる事例が顕在化しています。身近な地域の相談窓口を活用しながら、資力が十分でない方も含め、日常生活や入院、入所に際し必要となる各種手続について、適切な支援を受けられる体制を整備することが喫緊の課題です。

こうした観点から、生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業等の対象に、頼れる身寄りがいない高齢者等を含むことが明確化されました。頼れる身寄りのいない方々の多様なニーズに対応することはもとより、今後、分野横断的で、かつ断らない相談支援体制を構築していく上で必要な改正と考えます。

一方、頼れる身寄りのいない方々を対象とする第二種社会福祉事業の創設に関して、現在、社会福祉協議会で実施している日常生活自立支援事業は、地域によっては待機者が生じていることに加え、サービスを担う専門員や生活支援員の確保状況にも課題があります。今後の制度運用は、社会福祉協議会のほか、社会福祉法人を始め多様な主体が参入し、入院、入所手続や死後事務支援を適切に行うことができる体制を整備する方向での対応が求められます。その際、これまでの事業実績や経験を十分に踏まえ、関係者との調整を図り、実効性のある仕組みとして展開されることを期待します。

民法等改正による成年後見制度の改革も予定される中で、判断能力が十分でない方も含め、福祉で、そして地域で支えることが期待される領域が広がり、その意味でも今回改正が将来にわたる制度充実の一歩となることが期待されます。

ただ、社会福祉法の枠組みだけではどうしても限界があります。一定の資産、所得のある高齢者等を対象とする民間事業について、現在ガイドラインが示され、直近で事業者団体の立ち上げが予定され、優良事業者の認定に向けた取組が進みつつあります。国としては、こうした取組を後押しするとともに、将来における更なる法的対応の必要性につき検討を行うのが望ましいと考えます。

第三に、福祉人材の確保、定着です。

介護福祉士養成施設の卒業生を対象とする国家試験義務付けの経過措置をめぐっては、審議会でも様々な意見がありました。今回改正は、こうした議論の積み重ねを踏まえたものと理解しています。

地域の関係者の協働の下、地域の実情に応じ人材確保に向けた実践的な課題解決に取り組むためのプラットフォームを活用しながら、地域の担い手に対する基礎的な研修から、ICT、デジタルリテラシーの習得などのキャリアアップに資する研修の実施に至るまで、介護福祉士養成施設が地域で果たす役割について議論を深めていただきたいと思います。

第四に、多様なサービス提供の前提となる質、透明性の確保です。

有料老人ホームは、要介護度の高い方や医療を必要とする方など多様なニーズの受皿となる一方、一部の住宅型有料老人ホームでは、併設、隣接する居宅介護支援事業所や介護サービス事業所への利用の限定、誘導により入居者の主体的な介護サービスの選択が制約され、過剰な介護サービスが提供される囲い込み等の課題が顕在化しています。このため、登録制といった事前規制の導入は、人員、施設、運営等に関する基準が法令上設けられ、入居者の安全性確保やサービスの適切な選択の確保といった観点から適切と考えます。

こうした事前規制の枠組みと併せ、住宅型有料老人ホームの入居者に対する新たな相談支援類型の創設により、ケアマネジャーがホームと対等な立場でケアプランの作成と地域生活相談を一体的に行うことが可能となります。その他講じられる措置と併せて、入居者の自由なサービス選択が確保され、囲い込み対策として有効な取組と考えます。

ケアプラン作成を含め定率の利用者負担を求めている介護付有料老人ホーム等の仕組みとの均衡の観点から、新たな相談支援の類型について原則一割の利用者負担を求めるのも合理的と考えられます。

現在、社会情勢や人口構造の変化を踏まえ、住民、自治体、事業者といった多様な主体が連携しての地域社会の再構築が求められ、その中核的な理念である地域共生社会の推進が図られており、本法案もその一環として位置付けられます。

社会保障、社会福祉は、人々の支え合い、連帯の仕組みとして発展を遂げてきました。しかし、人々の価値観やライフスタイルの多様化などを背景として、その支え合いの理念が希薄化、脆弱化していると考えます。家族、企業、地域の在り方が大きく変化した中で、こうした支え合いの理念の重要性が国民相互の間で再認識されなければ、今後、我が国の社会保障は基盤を失い、立ち行かなくなると考えます。

そうした支え合いの理念を再構築する鍵となるのが地域であると考えます。地域共生社会の推進に当たっても、地域で行政のみならず住民も主体となることで、支える側、支えられる側という一方向的な枠組みを超え、共に支え合い、分かち合いながら地域をつくり上げていく双方向的な視点の重要性が指摘されてきています。参加、自治、協働などがキーワードです。

こうした視点は、狭い意味での福祉領域にとどまりません。改正法案でも、自治体が策定する地域福祉計画等において、保健医療、労働、住まい、地域再生、防災、消費者行政との連携が位置付けられています。福祉を超えて分野横断的な取組を一層推進する上で意義あるものと考えております。

以上、御清聴ありがとうございました。

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