葛野尋之青山学院大学法学部教授

2026年5月29日・第221回国会 衆議院 法務委員会 第15号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 4 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 281 発言)

青山学院大学の葛野尋之です。

私は、再審の研究を続けてきた研究者としての立場から、再審制度の存在意義と、請求人に対する証拠開示手続、そして証拠一覧表の提出命令の新設について意見を述べさせていただきます。

現行の再審制度は、憲法三十九条の要請により、有罪判決の確定により刑を科された本人に有利な再審のみを認めています。利益再審に純化した再審制度の目的は、端的に、誤った有罪判決という意味の誤判を発見、是正し、無実の人、無辜を救済する点にあります。

誤判による刑罰は、国が個人の人権を正当な理由なくして奪うことにほかなりません。憲法の求める個人としての尊厳、その基礎にある人間の尊厳を侵すものです。誤判は決して許されません。

しかし、刑事裁判は、いかに丁寧に手続を進め、どれほど慎重に証拠を評価したとしても、誤判を完全に防ぐことはできません。それゆえ、刑事司法は、誤判の防止とともに、誤判を迅速、確実に発見し是正するためのサブシステムを備えていなければなりません。このサブシステムが再審です。

誤判が決して許されないことからすれば、誤判を迅速、確実に発見、是正するという再審が有効に機能してこそ、刑事司法は全体としての健全性を獲得することができます。通常審とのバランス、通常審の尊重という理由から再審の機能を限定するならば、刑事司法全体の健全性が低下することになります。

時間の関係から(3)は割愛しますが、ここで言いたかったことは、確定判決の確定力、法的安定性の尊重は確かに裁判制度を維持するために重要ですが、それを理由にして、誤判の是正を抑制し、無辜の救済を怠ることは決して許されないということでございます。

証拠開示をめぐって、法制審再審部会の多数意見は、請求審は、裁判所が請求人の主張する再審請求理由の有無を主体的に判断するという職権主義の構造を取ることから、裁判所が再審請求理由の有無を判断するための事実取調べの一形式として、検察官に対して不提出証拠の提出を命じる手続を採用すべきである、提出命令の対象は、再審請求理由に関連する裁判所の審理に必要な証拠に限られるべきだという立場を取りました。

これに対して、請求人開示型の枠組みは、再審請求理由と関連せず、裁判所がその有無を判断するに当たり必要でない不提出証拠までをも請求人に直接開示すべきとするものであるから、請求審の職権主義構造に適合しないという意見が多数を占めました。

こうして裁判所に対する証拠提出命令が法制審答申において採用され、閣法の中に具体化されています。

しかし、請求審の手続を職権主義一色で性格づけることはできません。

再審請求において、唯一の当事者である再審請求人が本質的とも言える重要な役割を担っています。

すなわち、請求人の再審請求によって、請求審は始動します。請求人は、再審請求に際して、裁判所に対して明白な新証拠を提出し、新証拠に基づき、再審請求事由に当たる具体的な事実の主張としての再審請求理由を提示しなければなりません。請求人は、請求審において、その主張する再審請求理由の立証を求められます。裁判所は、請求人の主張する再審請求理由に拘束されて、再審請求理由が認められるかどうかを判断することによって、再審開始か請求棄却かを決定します。再審請求の過程で、請求人は、再審請求の際に提出したものとは異なる新たな新証拠に基づき、再審請求理由を追加、修正することができますが、そのときは、裁判所は、請求人が追加、修正した再審請求理由の有無を判断することになります。

法制審の再審部会においては、請求人の主張する再審請求理由こそが、請求審の審判の対象だという理解も示されました。これらの点において、請求人は極めて重要な役割を担っています。このことは、請求人が重い負担を課されていることにほかなりません。請求人が担う役割の重要性からすれば、請求人がその役割を十全に果たすことができてこそ、請求手続は有効に機能するということになります。

しかし、現在、請求人は、請求準備の段階でも、請求審の過程でも、捜査、訴追機関の手元に残されている不提出記録へのアクセスを厳しく限定されています。また、実際に、弁護人の援助を受けることもまれです。そのため、請求審において、請求人はその役割を十全に果たすことが著しく困難です。請求人が課されている重い負担に配慮して、請求人がその役割を十全に果たすことを担保する手続保障が必要とされます。

このような手続保障として、閣法にある、裁判所に対する証拠提出命令には限界があります。提出命令の対象は、請求人の主張する再審請求理由に関連しており、裁判所の判断にとって必要とされる証拠に限られます。

福井事件においては、テレビ歌番組の放映内容に関する捜査報告書が開示され、それにより、知人の目撃供述の信用性が決定的に減殺されました。この例のように、過去、請求人や弁護人が、裁判所に対して、再審請求理由と関連する範囲に限定することなく、広く不提出証拠を開示するよう勧告することを求め、裁判所がその要求に応えて、検察官に対して広く開示するよう勧告した結果、確定判決の有罪認定に合理的疑いを生じさせるような証拠が開示され、再審開始の決定を導いた実例が多くあります。関連性、必要性の限定をかけることによって、有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が開示されないままに終わるおそれがあります。

確かに、審理の経過に伴い、関連性があるとされる証拠の範囲が広がる可能性はあります。しかし、再審請求理由との関連性は、当初、請求人が再審請求に際して提示した再審請求理由を起点にして判断されます。請求人は請求準備の段階で不提出証拠にアクセスすることができず、自ら明白な新証拠を用意して再審請求理由を構成することが困難ですから、再審請求に際して実際に提示できた再審請求理由と関連する証拠の範囲はかなり限定されたものにならざるを得ません。

さらに、請求人が弁護人を選任していない場合には、請求人が裁判所に提出された証拠を閲覧、謄写することは困難であります。

再審請求の実務に携わった元裁判官たちの意見によれば、請求人、弁護人が実際に証拠の内容を検討してこそ、提出証拠の中に再審請求の立証に有用なものがあること、あるいは、再審請求理由の追加、変更の基礎にすべき新たな新証拠があることを正しく判断することもできます。私もそのように理解しております。

これからすると、請求人が担う役割を十全に果たすための手続保障として、閣法にある証拠提出命令には大きな限界があると言わざるを得ません。有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が開示されないままに終わるおそれが残ります。

有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠は、日本も批准している国際自由権規約十四条三項により、通常審において防御の準備のために開示するよう要求されています。布川事件国賠請求訴訟の判決は、裁判結果に影響を及ぼす可能性が明白な証拠については、被告人、弁護人から具体的な開示請求がなくとも、また、その可能性が明白でない場合でも、具体的な開示請求があるときは、検察官は開示義務を負うとしていました。

通常審において開示されるべき証拠が開示されなかった場合には、有罪判決の確定後、検察官は開示義務を継続して負うというべきです。検察官が開示義務を遵守していれば、請求人は、本来ならば通常審で証拠の開示を受けられたはずですから、検察官が義務に違反して開示しなかったときは、確定後、再審請求のために開示を受ける機会を保障されるべきです。有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠がより確実に開示されることを保障する手続が必要とされます。

請求人がその役割を十全に果たすことを担保する手続保障として、請求審の過程で、裁判所が、請求人の請求又は職権により、検察官に対して、請求人が開示を受ける必要のある証拠の開示を命じることができることとすべきであります。このとき、不提出証拠の中にある確定判決の有罪認定に合理的疑いを提起する証拠は、元々検察官が通常審において開示義務を負っていたものですから、開示命令の対象となります。

請求人は、開示された証拠にアクセスすることにより、再審請求理由の立証に役立つ証拠を獲得することができます。あるいは、新たな新証拠を発見、獲得して、それに基づき再審請求理由を追加、修正することができます。

請求人が開示請求権を実効的に行使し得るようにするために、また、開示手続を円滑化、効率化させるために、裁判所が、請求人の請求又は職権により、検察官に対して検察官の保管する証拠の一覧表の提出を命じなければならないとする手続を設けるべきです。

請求人及び裁判所が、検察官がどのような証拠を保管しているのかを把握できてこそ、請求人は開示請求権を実効的に行使することができ、裁判所も開示を命じるべき対象を正確に判断することができます。過去の実務が示しているように、請求人が検察官の保管証拠を把握できないまま、保管証拠を想像して、いわば手探りで開示請求をするということになると、開示まで長時間を要し、非効率であり、また、開示されるべき証拠が未開示に終わるおそれを生みます。二〇一六年の刑訴法改正により、通常審の公判前整理手続において、証拠一覧表の開示手続が設けられました。これに倣うべきです。

法制審再審部会においては、証拠一覧表の開示手続の提案に対して、裁判所が請求人の主張する再審請求理由の有無を判断するという請求審の構造に整合しないという批判がなされ、閣法は、裁判所が提出命令を発するかどうかを判断するために一覧表の提示を命じる手続を設けるにとどまりました。

しかし、今必要とされている一覧表の提出手続は、請求人が主張している再審請求理由と関連する証拠には限定されない、請求人のための証拠開示の手続を円滑化、効率化し、請求人の開示請求権を実効化するためのものですから、閣法の裁判所に対する提出命令を前提としたさきの批判は妥当しません。

再審議連の法案は、請求人の開示請求の前提として、送致書類目録の開示を定めています。証拠一覧表でなく、送致書類目録の提出手続とすることも可能なように思います。

証拠一覧表の提出命令は、実は、閣法にある証拠提出命令についても、請求人が請求権を実効的に行使することを保障し、手続を円滑化、効率化することに寄与します。この点からも、是非とも創設すべき手続であります。

裁判長の訴訟指揮権に基づく開示命令を発することができるかについて、検察官は消極的立場を取っていますから、開示命令を定める規定を置く必要があります。

法制審答申は、附帯事項として、裁判所に対する証拠提出命令を制度化した後も、裁判所による証拠提出、開示の勧告、検察官による任意開示が適切に行われることが期待されるとしました。このことは、法制審答申が、請求人のための証拠開示が必要、有用であって、請求人の必要に応えるための証拠開示が裁判所の判断のための証拠提出命令と併存し得ることを承認したということを意味しています。

しかし、従前の運用から見ると、やはり大きな限界があります。請求人のために開示されるべき証拠が十分に開示されることを保障するためには、開示命令の手続が必要であります。

実際、提出、開示の勧告に対する積極性には、裁判所により大きな差異がありました。検察官は、裁判所の開示勧告に従わないこともありましたし、任意開示の対象についても、再審請求理由との関連性を要求することもありました。閣法における証拠提出命令の存在によって、そのような限定の可能性が一層高まるかもしれません。開示命令の手続を設けることは、裁判所の提出、開示勧告、検察官の任意開示の実効的な機能を担保するということにもなるでしょう。

新設を提案しました請求人に対する証拠開示の命令及び証拠一覧表の提出命令と、閣法にある裁判所の判断のための証拠提出命令とは、目的、根拠、対象において異なるものです。それゆえ、両者は併存が可能であり、併存させるべきものです。両手続が共に働くことによって、再審請求手続の有効な機能が保障され、再審は、迅速かつ確実な誤判の是正、無辜の救済という目的をよりよく果たすことができます。

以上で私の意見陳述を終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

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