山野目章夫早稲田大学法学学術院教授

2026年5月20日・第221回国会 衆議院 法務委員会 第11号(外部サイト、新しいタブで開きます) の 123 番目の発言(外部サイト、新しいタブで開きます)(全 184 発言)

本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。早稲田大学の山野目と申します。

本日の議題であります内閣提出、民法等の一部を改正する法律案は、法制審議会における調査審議を経て、政府において法律案を作成し、御院に提出されたものと承知しております。その調査審議にいささか関わりました際などの経験、知見を踏まえ、この法律案に関する所見を申し述べます。

法制審議会は、法務大臣から受けた二つの諮問、すなわち、諮問第百二十五号及び諮問第百二十六号に基づき調査審議をいたしました。本日の法律案は、これらの諮問に係る調査審議の趣旨を踏まえるものでございます。諮問番号の順に従い、所見を申し述べます。

お手元にお届けしております表裏印刷の一枚物の資料をお取り上げくださるようにお願いいたします。表と記しておりますところからお話を差し上げます。

まず、諮問第百二十五号は、遺言制度の見直しに関するものでございます。

私たちが今手にしている民法は、ヨーロッパの民法などを参考として、明治の時代に作られました。そのヨーロッパのフランスの民法は、一八〇四年に作られております。およそ二百年を経る二〇二一年、ニースで催された公証人の大会において、デジタル遺言が話題とされていました。現代の情報通信技術を生かし、改ざん、過誤を防ぎ、遺言者に熟考の機会を恵む遺言の制度を新しく整え、一八〇四年の立法者の賢慮をこの時代として受け止めようという論議がされています。

私たちも、私たちの国、社会のことを考えたいものでございます。

現在の私たちの遺言制度には、幾つかの課題がございます。それらの課題を要約してお伝えするため、ここでは三つの道具というお話を差し上げることにいたします。

三つの道具と申しますものは、もっと用いられてよい道具、今は認められていないが用いられてよいと考えられる道具、そして、これからは必須ではないと思われる道具でございます。

第一の、もっと用いられてよい道具は、パソコンでございます。

現在も、土地や建物の番号の類いや金融機関の口座番号などのリストの部分をパソコンで作ることができますけれども、そのほかの文章の部分は手書きにしなければなりません。どうしても緊張して書いていますから、幾度も書き間違えをしたりし、また、書き間違えをしてはいけないと考え、思わず筆圧も大きくなって不便でございます。今般の改革は、全体をパソコンで作成したものを法務局に持っていって手続をし、保管してもらい、遺言とすることができます。

第二は、今は認められていないが用いられてよいと考えられる道具であり、一つの例示でございますが、スマホの通信機能がございます。

一九八五年八月十二日、羽田空港を離陸した日本航空一二三便は、相模湾上空で機体が大きく損傷する事態となりましたけれども、機長の勇気、機転、そして客室乗務員の皆さんの懸命な努力に支えられて、群馬県御巣鷹山に至りますまで、いささかのいとまがありました。こうした際、手元のスマホを用い、地上の誰かに録画、録音を送信して、財産を処分するプランを示しますならば、後日に確認の手続を経て、遺言として整えることができるようにする施策が考えられます。

第三に、もう用いなくてもよいものではないかと思われる道具が、判こでございます。

パソコンもスマホも明治の先輩たちが知らなかったものであるのに対し、長く判こが用いられてまいりました。手書きをし、あるいはパソコンで作成したものを確認してもらうなどし、間違いなく本人が作ったという経緯を明らかにすることができますから、押印の要件、判こを押す要件はもう要らないと感じます。

必ずしも要らないと申し上げるものであり、これからも判この役割がなくなりはせず、私たちの文化の一翼であり続けるでしょう。

遺言制度の見直しについてお話を差し上げました。

お手元の資料を返していただいて、裏と記してあるところを御覧くださるように望みます。

あと一つの法務大臣の諮問、諮問第百二十六号は、成年後見制度の見直しに関するものでございます。

現在の成年後見制度には幾つかの課題がございます。それらの課題を要約してお伝えするため、ここでは三つの「でも」というお話を差し上げることといたします。

三つの「でも」と申しますものは、これまでの成年後見人の権限が、何でもすることができる、本人に無断ででも行使することができる、そして、いつまででも続くでございます。

第一の「でも」からお話を差し上げます。

これまでの制度における後見は、特殊な例外を除き、成年後見人は、本人の事務の何でもする権限がありました。今般の法律案は、権限の包括性を廃し、類型を一元化し、補助の下で、補助人が特定の行為について権限を与えられて仕事をします。

第二の、無断ででものお話を差し上げます。

法制審議会の調査審議に際し、令和七年六月から同年八月までの間、パブリックコメントの手続が行われ、個人、団体を合わせ約三百十件の意見が寄せられました。また、法制審議会の専門部会におきましては、合計五回の会議を当て、当事者団体、障害者支援団体など様々な立場の方においでいただき、ヒアリングを実施いたしました。

それらにあって届けられた声を踏まえ、これからの補助人は、よく本人とのコミュニケーションを図り、本人に情報を提供するようにしなければならず、そして本人の意思を把握するようにしなければならないものとされ、本人の意思を尊重することが法律でうたわれてよいと考えます。

第三の、いつまででも続くという事実上の終身性は困った問題です。

これまで、本人の事理弁識能力が回復しない限り、後見などが終了しない仕組みでしたから、例を挙げますと、親族に亡くなった人があり、本人が遺産の話合いに参加しなければならないから、本人を助ける成年後見人が選任されたとしますと、その遺産の件が終わっても後見が続き、成年後見人が専門職ですと、本人が報酬を払い続けることになります。

本日提案されております補助人は、特定の行為について権限を与えられますから、仕事が終わったならば補助を終了させる家庭裁判所の審判がされます。

これまでの成年後見制度にある三つの課題を解決するための施策を申し上げました。それらの施策により、多くの課題が解決するかもしれません。けれども、それで足りるでしょうか。

任意後見契約の仕組みの改革についてお話をします。

本人への十分な説明という手順は、それとして望まれます。しかし、それのみでは、本人は受け身の立場にとどまります。人々が元気なうちに、将来において判断能力が衰えてくる段階に備え、あるいは判断能力の若干の衰えが始まるとしても、周囲の人たちとの相談の上で、自分の財産管理をどうするか、デッサンを描いておく能動的な備えを可能とする仕組みが望まれます。

これまでは、将来において支援者にしようとした任意後見受任者に加え、いざ任意後見が始まりますと、必ず任意後見監督人を選任しなければならず、見知らぬ任意後見監督人に報酬を払わなければならない事態がよく見られました。

本日の法律案に幾つかの工夫を盛り込んでおります。

本人は、任意後見契約の公正証書を作る際、任意後見監督人の人選に関する希望を申し述べることができ、これを考慮してもらえます。また、家庭裁判所が明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるときは、任意後見監督人を選任せず、家庭裁判所が直接に任意後見人を監督することを許容する規定が本日の法律案に含められております。

本日の議題とされております法律案を準備するため、法制審議会においては熱心な討議がされました。成年後見制度を検討した会議におきましては、合わせて三十三回に及ぶ会議、毎回おおよそ四時間から五時間にわたり法律用語が飛び交う席にあって、認知症高齢者や知的障害者の本人、家族を代表する人々が粘り強く熱意を持って審議に関わり、それらの方々が毎回発言をし、そのようにして得られた成果を本日お示ししております。法制審議会にはこのような景色もまたあることを是非御理解くださるよう、切に望みます。

本日の法律案は、高齢者、障害者のみならず、その家族、あるいは同僚、知人など、周囲にあるこの国の全ての人々が気概、活力を持って二十一世紀後半の更なる高齢化社会の到来に備え、また、ハンディキャップのある人もそうでない人もひとしく社会に包み込まれて、それらの人々のいずれもが社会に参加することを実現すべく、発展する情報通信技術を工夫して用いつつ、この時代に挑もうとする展望をにらむものでございます。そこに残された課題を含め、是非御院において御精査、御審議を賜りますよう望みます。

意見陳述の機会をお恵みくださいまして、誠にありがとうございました。(拍手)

前後のやりとり

119の発言を見る

127の発言を見る